2025.5.30

AI活用の要点とSIerの現場での使い所・そうでない所

技術

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こんにちは!AIサービス開発室の鈴木生雄です。

ここ最近、AIを活用した業務効率化の話題があらゆる分野で加速しています。SIerの現場でも例外ではなく、ChatGPTのような生成AIを「どこでどう使うか?」という議論が日常的になりつつあります。ただ、AIは魔法の杖ではありません。「使い所」と「使いどころではない所」を見極めることが、今後のSIer業務において非常に重要になってくると感じています。こうした問題意識を元に、通勤中にChatGPTとやり取りをしていたら、そのままブログにできそうなネタができたので、出社してすぐにこのエントリーを投稿しました。

「AI活用の要点」は、コンテキストの言語化に尽きる

AIを業務に取り入れる際の判断軸は非常にシンプルです。それは――必要なコンテキスト(文脈)が、明確に言語化できるかどうか。たとえば、学校のテスト問題のように「条件が明確で、正解が決まっている作業」は、AIに任せることで圧倒的に効率が上がります。仕様書に基づくコード生成や、決まったフォーマットへのドキュメント整形などが好例です。逆に、「その場の空気を読んで調整する」「顧客との関係性や過去の経緯を踏まえて判断する」といった言語化しにくい“暗黙知”を前提とする作業は、現時点ではAIには荷が重いのが現実です。つまり、言語化できること=AIが得意な領域、言語化できないこと=人間が担うべき領域と捉えるのが現実的です。

SIerの現場では、どのようなプログラミングにAIを使うべきか?

SIerの業務にはさまざまなフェーズがありますが、特にプログラミングの現場では、AI活用の可能性が大きいと感じます。ただし、万能ではありません。

✅ AIを活用すべき場面

  • 過去の仕様書やコードをベースにした類似機能の実装
  • テストコードの生成(特にユニットテスト)
  • 入出力が決まっている単機能プログラムの生成
  • エラー内容の初期診断やログの要約

これらは、仕様や目的がある程度明確で、AIに対して「こうしてほしい」と指示を出しやすいケースです。プロンプトの工夫次第で、人間が書くよりも早く・正確なアウトプットが得られることも珍しくありません。

❌ AIを使いにくい場面

  • 仕様が固まっていない中での要件整理・折衝
  • レガシー環境特有の制約を踏まえたコード修正
  • 複数の部門・ステークホルダーの利害を調整しながらの実装方針決定

こういった場面では、技術的な知識だけでなく、関係者との調整力や背景事情の把握力が求められます。「なぜこの設計にするのか?」という意図までAIに伝えきれないと、期待したアウトプットにはなりません。

若手が「経験を積む機会」をAIが奪うというジレンマ

AI活用が進むほど、もう一つの問題も顕在化してきます。それは、「エントリーレベルの人材が、経験を積む機会を失ってしまう」ことです。

かつては先輩の書いたコードを写しながら自分で試行錯誤することで、仕様の読み方や設計意図を体得していた場面がありました。今ではAIが一瞬でコードを出力してくれるため、「何がなぜそうなっているのか」を考える機会が大幅に減っています。その結果、「AIに聞けば出てくるけど、なぜそうなるのかは分からない」――そんな若手エンジニアが増えてしまうリスクがあります。

また、そもそもコンテキストを言語化できる作業はAIに任せた方が早いので、エントリーレベルの人材はAIにそういった易しい作業を奪われてしまい、結果として段階的に成長しづらい状況になりつつあります。

これらは将来的に、AIを活かすための“言語化力”や“判断力”を持った中堅層が育ちにくくなるという、深刻な構造的課題になりかねません。

解決策:経験とAIを両立させるための工夫

このジレンマに対処するためには、「AIの使用を禁止する」ではなく、設計的に経験機会を維持することが重要です。以下のような施策が考えられます。

  • AIを教材として使う:AIの出力コードを題材に、「なぜこの実装なのか」を考察させる訓練
  • 設計意図の言語化訓練:すべての実装に理由を説明させる習慣づけ
  • 泥臭い現場対応の経験:AIが苦手な仕様調整・顧客折衝を若手に任せて育成
  • AI出力の検証者として育てる:初期フェーズで品質保証的な立場を経験させる
  • 学習フェーズと活用フェーズを分ける:最初の1〜2年はAI利用を制限して基礎力を鍛える

重要なのは、AIによる効率化と人材育成のバランスを、組織として意図的に設計することです。

地に足のついたAI活用と、技術進展へのキャッチアップ

「AIを使わないと時代に取り残される」と言われる一方で、「AIは全然使い物にならない」という声も根強くあります。しかし、どちらも極論です。重要なのは、作業ごとに「その背景にあるコンテキストは何か?」「それは言語化できるか?」を丁寧に見極めることです。現場の知恵と経験を活かしながら、AIに任せられる部分を切り出していく地道な作業こそが、最終的にはもっとも効果的なAI活用につながります。

また、AI自体の進化も見逃せません。たとえば、マルチモーダルな入力(画像・音声・動画など)を処理できる能力や、長期記憶を備えた対話能力が向上すれば、AIが把握できるコンテキストの範囲も格段に広がります。つまり、技術の進展とともに「AIに任せられる仕事」の範囲も変わっていくということです。そのためには、我々自身がAI技術の進化を継続的にキャッチアップしながら、活用範囲の再評価を行うことが欠かせません。

AIは道具であり、進化するパートナーです。だからこそ、正しく付き合うためには「見極める目」と「学び続ける姿勢」が求められているのだと思います。

では、今後どうするか

個人としては、AIは今までで一番面白い”おもちゃ”のような感覚で毎日触り続けていますので、そのおかげで自然と「見極める目」と「学び続ける姿勢」を身につけられているような気がします。一方で会社としての取り組みはまだそれほどできていないので、社員のみなさんに啓蒙しつつ意見を聴きつつ、具体的な打ち手を講じていきたいと思います。