
こんにちは!AIサービス開発室の鈴木生雄です。Google DeepMindによるAlphaEvolveの発表をみて大きな衝撃を受けたので、急遽このエントリーを投稿することにしました。
AlphaEvolveはAIモデル「Gemini Flash」と「Gemini Pro」に進化的探索という手法を組み合わせたAIエージェントです。進化的探索では、アルゴリズムやプログラムの形で表現される候補となる解の集団を「検証」「実行」「採点」を反復することによって、時間とともに発展させていくのだそうです。このアプローチは数学や計算科学のように自動評価ができる問題に対して非常に有効なため、AlphaEvolveはそれらの分野で新しい解法を発見できる能力を備えていると言えるのです。
実際、深層学習のベースとなる行列計算の分野では、4×4の行列の乗算の新しい計算方法を発見しました。それまでは、1969年に発見された「Strassen法」のスカラー乗算49回が最速だったところを、48回に短縮して記録を56年ぶりに更新しました。この発見の過程について私が面白いと感じたのは、AlphaEvolveが、人間からすると実数よりも扱いが難しい複素数の世界でアルゴリズムを探索したということです。あえて(人間からすると)より難しい問題設定でアルゴリズムを探したことが新発見につながったという点は、AIならではという感じがしますよね。
ちなみに、一般的な方法で4×4の行列Aと行列Bの積Cを求める際、Cのi行j列の要素は下図の数式で求められます。なので、1要素を求めるためには、4回の乗算と3回の加算(4項を合計するには加算が3回)合わせて7回のスカラー演算が必要です。つまり、4×4の16要素を求めるためには、7×16=112回のスカラー演算が必要になるわけです。私は数学に明るくないので詳しくはわかりませんが、これを49回とか48回に短縮する方法があるということですね。
それから、GoogleはすでにAlphaEvolveを使って、以下のようなビジネスの課題を解決しているそうです。
- データセンターにおいて計算タスクをどのコンピューターに割り当てるかをスケジュール等するクラスタマネージャー「Borg」の処理を最適化をして、計算資源を0.7%節約した。
- 行列乗算カーネル言語「Pallas」を23%高速化して、Geminiのトレーニング時間を1%短縮した。
Gemini自身がGeminiの発展に寄与しているところから、私なんかは”未知のタスクや複雑な問題も自己進化により解決できる” ASI(Artificial Superintelligence:人工超知能)の実現を連想してしまうのですが、ちょっと飛躍しすぎでしょうか(笑)。でも少なくとも、人間がAIと協働することで画期的な発見をしやすくなったのは間違いないので、生きている間に実現すると思っていなかったようなことが起きる可能性は高まっている気がしてワクワクしますね。
最後になりますが、AlphaEvolveに関するニュースをまとめたPodcastと合わせて読んでほしい当ブログのエントリーを紹介します。ぜひこちらもご参照ください。
Podcast
以下の動画を元にGoogle NotebookLMで作成した音声概要をPodcastにしました。NotebookLMは短い時間で概要を知るのにとても便利です。
あわせて読んでほしい記事
このエントリーでは、Google DeepMindのDEMIS HASSABIS と JOHN M. JUMPERがノーベル化学賞を受賞したニュースを取り上げています。AIの進展によってノーベル賞級の発見が爆発的に増加するのでは、と期待してしまいます。